
ヴィヴ・アルテ ケア・コンセプト
VAP*(ヴァップ)は、日常の看護・介護のなかで動きを維持・改善することを目的としてハイディ・バウダー ミスバッハが提唱し、開発したケア・コンセプトです。
*ドイツ語のVIV-ARTE®Pflegekonzeptの頭文字
ICU、脳神経内科、リハビリテーションおよび老人医学の分野で実施してきた多くのプロジェクトを通して得たさまざまな経験から生まれ、現在も、臨床で日々開発が続けられています。臨床および介護の現場で実践できること、それが何よりも重要です。
VAPのプログラム開発、学術研究および上級課程については、1998年からドイツ・ウルム大学病院の協力を得て実施されています。同病院看護部は心臓外科患者を対象にVAPの臨床応用の有効性・有用性に関する学術研究を実施し、その成果はハイディ・バウダーミスバッハとの共著として2003年に出版されています。
VAPは、介助される人の尊厳を守りながら、日常の看護・介護のなかで動きの維持・改善を行って、次のような援助をしたいと考えています。
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自立性を取り戻し、できるだけ維持するためのサポートをする
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健康維持・改善をはかる
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良好な生活の質(QOL)を可能にする
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尊厳ある死へのプロセスに寄り添う
併せて、介助する人は悩まされることの多い腰痛の予防も含めて、次のことを学びます。
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患者や要介護者を持ち上げたり引っ張ったりせず、自然な動きの流れを援助する
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動きと接触を介して相手をリードし、また相手に従う
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難しい状況の克服のため、一人一人に合った介助戦略を策定する
介助しながら、相手の動きを維持・改善する。“持ち上げないで、自然に動かす”
VAPでは、最も重要な予防的処置をケア動作に直接組み込み、併せて時間も節約する方法を教えます。患者や要介護者の体位変換は、自然な動きで介助します。
これにより、日々のケアにおいて相手の動きは今までの何倍にも増えて、常にリハビリ的な要素をもたせたケアが行われることになります。
介助者の腰に負担がかからず、介助される人の疼痛予防になり、高価なポジショニング用品のコスト削減にも役立つでしょう。チームでのトレーニングを実施すれば、ケアの継続性が確保されます。
VAPのカリキュラムについて
VAPは、セルフケア能力、健康増進、生活の質の維持・改善のため、看護理論の臨床での応用と、介護現場のニーズに応じた実践を目的としています。そのため、講義および受講者間の比較・体験学習に加え、臨床実習を必須とするカリキュラムを採用しています。
新しく興味をひく内容に触れながら専門スキルを身につけて、ルーチンとなった日常ケアの毎日をより充実したものにしてください。患者や要介護者の困難な状況を前にして怯むのではなく、創造的に解決策を講じていく能力を身につけましょう。失敗を恐れるのではなく、プロフェッショナルとしての自分の行為に自信がもてるようになってほしいと考えます。
VAP教育課程には、(1)基礎課程と(2)上級課程があります。(2)の上級課程はさらに、a)アドバイザーコースとb)ティーチャーコース」に分かれます。各課程には4つのモジュールがあり、各モジュールをその順番通りに修了していくことが必要です。各モジュールは、講義と臨床実習から構成されています。上級課程では専門レポートの提出が必須です。
(1)基礎課程
モジュール1 「予防のためのモビリゼーション」
モジュール2 「リハビリゼーションとしてのモビリゼーション」
モジュール3 「健康改善」
モジュール4 「効率のよい健康増進」
(2)上級課程
a) アドバイザーコース モジュール11-15
b) ティーチャーコース モジュール21-24
【基礎課程】

VAPモジュール1
予防のためのモビリゼーション、2日間

3段階で行うモビリゼーションにおいて、自然に、痛みを少なく動かす:”持ち上げるのではなく、歩きます”。
人の体の機能解剖的基礎を考慮しながら、すべての姿勢・体位変換を、生理学の概念に基づいた動きで基本パターンを使って受動的に援助することを学びます。
学習目標
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腰部や背部に負担のかからない働き方
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患者の不安や疼痛を軽減する
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寝たきりの状態によって引き起こされる障害を予防する
内容
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持ち上げずに受動的に動かし、その過程で筋肉と関節を活性化する
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受動的な相手の歩行様移動を、効果的に誘導する
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体位変換に伴う痛みを軽減し、誘導しやすいように、ウォームアップで患者を準備する
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クールダウンで、終了時の体位を安楽を整える
動きの基準と誘導の基準
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連続的な荷重と抜重
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骨格を介して体重を移動する
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身体部位を順番に動かす
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身体と空間の位置認識を一致させる
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柔軟なハンドリング、目で追う、自分の動きを一致させる

VAPモジュール2
リハビリテーションとしてのモビリゼーション、3日間

3段階で行うモビリゼーションをクライエントの一人一人の状況に合わせる:”補助的に援助する“。
姿勢・体位の変換をするとき、動きのパターンを適応させて部分能動的的および能動的に援助することを学びます。
学習目標
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患者自身の活動を促す
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一人ひとりに合った動きのパターンを援助する
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患者と介助者の努力を最小限に抑える
内容
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患者の一人ひとりに合わせてモビリゼーションの準備をする
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患者の残存能力に合うように、動きのパターンを適応させる
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努力面を最適化する
動きの基準と誘導の基準
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抵抗を知覚して、反応する
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努力を分担し合う、速度 & リズムを適応させる
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支える面と運ぶ面の可動性を維持する
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動きのパターンを適応させる
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習慣となっている動き方を最適化する
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残存能力に合わせて、力を加減する
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押しの増進・押しの変化・接触面から引き離す動きとの間のバランスを保つ
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縦横に緊張を作り、保つ
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きっかけの合図となる刺激は、引き & 押しの方向へ与える
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安定性 & 柔軟性を確保する
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力は、身体を使って強める

VAPモジュール3
健康改善、3日間

モビリゼーションの3段階を 日常ケアの動作に統合する:"ケアをしながら、セルフコントロールを維持改善する"
日常生活動作を患者がどの程度自立して行えるかを数値化し(MOTPA)*、ケアをしながらトレーニングする方法を学びます。
* MOTPAは患者を対象としたモビリティーテスト:機能的可動性が体位変換の実施および距離の克服で測定される (Brach et al., 2006)
学習目標
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日常ケアに動きの維持・改善を組み入れる
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要介助者の良いポジショニングを整える
内容
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体位変換は、準備動作を行い、動的に実施する
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動きのトレーニングは様々な体位で行う
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日常生活機能が容易になるようにポジショニングする
動きの基準と誘導の基準
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体位の中心をずらす、体位変換の準備動作、その場に留まるための体位は中心を合わせる
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回旋・伸展と回旋・屈曲によって荷重・抜重する
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モビリゼーションの3段階を日常ケアに統合する
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様々な体位でセルフコントロールをトレーニングする
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筋トーヌスは、環境を変化させて調整する
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安静体位では、身体の浮いている部分に体位保持用品を使う
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補助具を選択し、使用方法を指導する
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ベッドの調節機能は、最終体位を整える前に設定を終える
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補助する人は、一人がリードして、もう一人は従う
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補助する二人は、患者に従う
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関わっている全員が、きちんと開始時体位をとる

VAPモジュール4
効率のよい健康増進、2日間

患者と一緒に3段階のモビリゼーションを行いながら、動きと運動協調を学ぶ:
"モチベーションを与える – 努力を最小限に抑える"
患者との学習過程において、インタラクションの形を一人ひとりが必要とする条件に適応させることを学びます。そうすることで、患者にとって日常生活動作のセルフコントロールのトレーニングが容易になり、回復プロセスに積極的に関わろうとする意欲を高めます。
学習目標
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セルフコントロールされた動きが安全・確実に行えるようトレーニングする
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双方向の学習プロセスにする
内容
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新しい動きを教える& 学ぶ
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動きの各側面を、触覚と運動感覚を介して明確に相手に伝える
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能動的な患者自身の動きを、接触を介して最適化する
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学習プロセスを組み立てる
動きの基準と誘導の基準
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時間、空間、努力を効果的に伝える
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同時双方向的にリードし & 従う
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比較体験する機会を提供する
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もっと動き、有効性を改善する
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運動協調性を習得する
【上級課程】
アドバイザーコース & ティーチャーコース

a)アドバイザーコース モジュール11-15

アドバイザーは基礎課程の受講者および修了者から難しいケースなどの相談があった場合にアドバイスができるほか、各モジュールで学ぶ「動きの基準」と「誘導の基準」の復習を目的としたワークショップを開催して教えることができます。
VAPアドバイザーの資格取得の条件の一つが、専門レポートの提出です。

b)ティーチャーコース モジュール21-24

ティーチャーは、例えばモジュール21修了者はモジュール1の授業を行うことができます。22以降同様です。
さらにモジュール4、14、24の各修了者を対象に、習得内容のブラッシュアップやレベルの保持を目的とするフォローアップセミナーの定期的な実施を予定しています。